とんかつうめ茶づけblog ~Eight days a week~

同人SSサークル「とんかつうめ茶づけ」及び星倫吾の活動記録……なんて。

桜月姉妹BDSS | 命短し恋せよ乙女

かのバレンタインデーから約一ヶ月が経ち……今日は双愛中学の卒業式だ。
桜月キラ・ユラ両名とも、ここ双愛中学にて卒業証書を授与される。
父兄席のさらに後ろで、桜月家の執事・剣崎は、壇上に上る彼女らを見守っていた。
幼少の頃から彼女らの世話を務めていた剣崎にとって、
キラやユラは自分の娘や孫にも等しい、否、それ以上の存在である。
そんな彼が感極まり落涙したとて、「鬼の目にも涙」などとからかう者は、
誰一人としていないだろう。

  *

二見望や、他のクラスメイトに懇願され、
キラ・ユラを元の女学院に転校させるのを止めた事を、
旦那様……つまりは彼女らの父に報告するのは、
剣持にとっては、まさに「決死」だった。
事業で多忙を極める旦那様に、
わざわざ手間を取らせて転校の手続きを行わせたというのに、
たかが中学生に懇願されてそれを白紙に戻してしまったのだから、
執事として、それこそ文字通り「腹を切って」責任を取るつもりだった。

だが、旦那様は「そうか……」と言葉を漏らしたのみ、
剣持に責任を追及することはなかった。

「もう私があの子らに『試練』を課す必要はない。
 むしろ、あの子らは私がこれから課す試練の何倍も過酷な『試練』に
 自ら立ち向かおうとしているのだからな……。
 当人同士でしか解決できない、正解のない『試練』に。
 剣持よ……もしあの子らが、真の意味で助けを求めたら、
 ……その時は、頼むぞ」

  *

旦那様が言った言葉を、剣持はようやくその意味を理解出来た。

“命短し 恋せよ乙女”

昔の歌にあった歌詞だが、この「命」とは生命とか寿命そのものではなく、
純粋に人を好きになれる「乙女」でいる時間は、
人生の内でほんの一瞬ともいうべき短い時間なのだと。
年長者でありながら、否、年長者であるからこそ忘れていたコトを、
剣持は涙と共に深く噛み締めていた。

・:*:・°’★、。・:*:・°’☆

テレコム版『双恋』のサイドストーリーとして書いてみましたが、
桜月姉妹SSというより、剣持さんSSになってしまったなぁ……。
だが私は謝らない(苦笑)