とんかつうめ茶づけblog ~Eight days a week~

同人SSサークル「とんかつうめ茶づけ」及び星倫吾の活動記録……なんて。

鞠絵BDSS | 一足早いお花見

早春の柔らかい陽光が療養所の鞠絵の部屋を包む。
検温や朝食も済んで一息つく、そんな時間に、
鞠絵に面会人が来ているという看護師さんの報せを受けた。

……が、鞠絵を訪れたのは、彼女が待っていた人ではなく…………。

「兄くんは……所用があって……今日は来られないそうだ……」
兄の代わりに鞠絵の療養所に来たという千影。
兄に会えない落胆が、鞠絵の表情に隠しきれずににじむ。
「あ……千影ちゃんが来てくれただけでも、嬉しいから……」
「ムリは……しない方が良い……。鞠絵の気持ちは……私にも分かる……」

やおら千影は鞠絵に紙袋を差し出す。
「兄くんからの……預かり物だ……。今日という日に関係するアイテム……らしい……」
4月4日、鞠絵の誕生日だ。
しかし、千影に渡された紙袋は、なんの装飾もない質素なもので、
とてもバースデープレゼントが入っているようには見えない。
鞠絵が中身を見ると…………中に入っていたのは、桜あんパン。
あんパンの真ん中のヘソのようなくぼみに、桜の塩漬けが入っているものだ。
「……『4月4日は、あんパンの日』……?」
そのパンを買った店でもらったとおぼしき、
紙袋に入っていたチラシの文字を追う鞠絵。
そこに兄の真意など読み取れるはずもなく……。
「兄くんは……時々……時々だけど……奇怪な行動を取ることもあるから……」
普段は感情を表に出さない千影も、さすがに呆れを含んだ声色を漏らした。

チラシの裏をふとみると、「一足先に桜前線届けます」と、走り書きの文字が。
いつか満開の桜並木の下を、兄と二人で肩を並べて歩きたい……。
鞠絵はそんな思いを馳せた。
「……兄上様、いつか本物の桜の花を見に行きたいです……」

何かを確認したように、鞠絵の方を一瞥し、千影は療養所を後にした。